皆さんのお子さんが、部屋に篭ってタブレットを操作していたらなんと声をかけますか?
ゲームしないで勉強しなさい!
このワンシーン、すごくイメージがつきやすいですよね。実際私もパソコンを操作していた時によく言われました。
しかし、この定番のシーンも見られなくなる時代がすぐそこまできているかもしれません。
GIGAスクール構想が学びを変える?
令和元年12月13日
「子供たち一人ひとりに個別最適化され、創造性を育む教育ICT環境の実現に向けて~令和時代のスタンダードとしての1人1台端末環境~」
を掲げ、児童生徒向けの1人1台端末と、高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備するための経費が盛り込まれた令和元年度補正予算案が閣議決定されました。
これによって、各自治体は、国から補助をもらい令和5年度までに、順次管轄の小、中、特別支援、高等学校に校内LANと児童用PC端末、電源キャビネットを導入することになります。※高等学校にはPC端末は含まれません。
(コロナによって、導入に際する予算は令和元年度補正予算、2年度補正予算に盛り込まれ、導入スケジュールは前倒しされています。)
こうした環境整備をすることで、
1現在の学校間、自治体間のICT環境の遅れや格差の是正を促し令和時代のスタンダードな学校像としてのICT環境を実現すること
2多様な子供たちをだれ一人取り残すことのない構成に個別最適化された学びを全国の学校現場で持続的に実現すること。
を目指した構想が、昨今よく聞くGIGAスクール構想です。
今回は、このGIGAスクール構想を大枠でとらえるために、わが国の目指す社会像、これまでの取り組みをお話ししようと思います。
GIGAスクール構想は、少し先の未来予想図?
突然ですが、これから少し先の未来を想像してください。
AIがなんでもやってくれる世界でしょうか、車が空を飛んでいる?ドラえもんみたいなロボットがいるかも。
様々なアイデアが浮かびそうですね。
今の子どもたちは、今想像した少し先の未来で活躍する世代です。
そんな未来で活躍するのはどんな人材なのでしょうか?
どんな資質や能力が必要なのでしょうか?
それを知ることが出来れば、今の子どもたちに必要な教育や環境が見えてくるはずです。
きっと少し先の未来では、今よりも進化したスマホを皆が持っていて、IoTが進んでいて、AIが面倒な処理を手伝ってくれて、ビックデータが活用されていて、世界をより身近に感じている。
そういう世界が来ることは間違いないですよね。
単純に考えれば、今よりも便利で豊かな社会が来そうです。でも少し悲観的になれば、AIに仕事を奪われて、貧富の格差が広がるなどの社会問題の深刻化や、移民増加による新たな社会問題が生まれることも考えられます。
そんな少し先の未来。皆さんはどんな未来を描きますか?
たくさんの未来が想像できそうですが、今回は国が描く未来を見てみましょう
我が国が描く少し先の未来予想図
わが国の描く少し先の未来(society5.0)は、
IoTですべての人とモノがつながり、様々な知識や情報が共有され、今までにない新たな価値を生み出すことで、現在の社会(情報社会_society4.0)の分野横断的な連携の不十分さや、必要な情報の分析作業の負担、年齢や障害などによる労働や行動範囲の制約、少子高齢化や地方の過疎化などの課題に対する様々な制約という課題や困難を克服できる
社会です。
そして、これらの社会はサイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムによって実現します。
もうすこし詳しく説明します。
例えば自動車です。いままでの社会であれば、人がナビで検索をかけたり、端末などで渋滞情報や交通状況を送信したり(フィジカル空間)すると、その情報がクラウド(サイバー空間)に溜まります。そうしたデータを人が取り出して分析し、新たな提案を人が行ってきました(フィジカル空間)。
しかし少し先の未来では、車の走行中にセンサーが様々な情報を集め、自動的にサイバー空間へ莫大なデータが蓄積されます。これらのビックデータをAIが解析し、新たな価値として提案を行うことで様々な形で人にフィードバックされます。つまり、ビックデータを踏まえたAIやロボットが今まで人間の行っていた作業や調整を代行・支援する社会です。
こうした社会になる事で、いままでできなかった新たな価値が産業や社会にもたらされ、経済発展や社会課題の解決に貢献され、誰もが快適で活力に満ちた質の高い生活を送ることが出来るようになる。それが国の描く少し先の未来です。
そんな未来で活躍する人材とは?
そんな未来が現実に来たと仮定して、その社会で活躍する人材はどういった資質や能力のある人でしょうか。
皆さんもご自身で描いた少し先の未来では、どんな人が活躍しているか想像してみてください。
それが、今行うべき教育のヒントになるはずです。
society5.0に必要な資質、能力とは何でしょうか。
今までにも共通して必要な力として3つの力
- 文章や情報を正確に読み解き対話する力
- 科学的に思考、吟味し活用する力
- 価値を見つけ生み出す感性と力、好奇心、探求心
そして新たな社会を牽引するために、必要にな3つの人材を示しています。
- 1技術革新や価値創造の源となる飛躍知を発見、創造する人材
- 技術革新と社会課題をつなげ、プラットフォームを創造する人材
- 様々な分野においてAIやデータの力を最大限活用し、展開できる人材
これを、段階的に明確に示したのが、新指導要領です。(平成30年に幼稚園、令和2年度に小学校、3年度に中学、4年度に高等学校で改訂されます)
新指導要領は、また別の記事で深く振れる事として、これらの力を育むための学校環境を次に考えなければいけません。
上記した力を見ると、ICT技術を活用し創造する力という風に読み取れると思いますが、今の学校現場はどうでしょうか。
テレビがある?プロジェクターがある?パソコン室がある?
それってICT環境と言えるのでしょうか。
ICT技術を活用し創造する力を養うはずの学校現場にICT環境が乏しい、ICTが学べない環境、であっていいはずがありませんよね。
子供たちが大人になる社会は、前述したような世界なのに、インターネットにさえ繋がらない教室でなにを学ぶのでしょうか。
現在の社会から見ても時代遅れの空間では、未来のための教育はできませんよね。
それなら、国をあげてICTを教室の標準設備にして、子供たちに未来で活躍する力を学んでもらおうじゃないか。
そう思いますよね?
この、GIGAスクール構想がまさにそれ。というわけです。
その他の背景として、日本の抱える先端技術に関する研究開発人材の不足という課題や、学校現場でも利活用できる技術の進歩、世界の教育現場のICT化、教員の働きすぎ問題などがありました。
GIGAスクール構想には兄弟がいっぱい?
今回、ようやく標準設備になろうとしているICT環境。
そんな教育ICTはここ最近になって登場したものなんでしょうか。
日本は遅れている遅れていると聞きますよね。国は何も考えていなかったんでしょうか。
そんな疑問にお答えするためにも、今回のGIGAスクール構想をより深く知ってもらうためにも、いままでにどのようなICT化への取り組みがあったのか見ていきましょう
日本はちゃんと考えていたの?
関係者の見解が一貫していないので定かではありませんが、学校教育という視点に立つと、昭和60年がコンピュータ教育元年とすることが多いです。それは、コンピュータを中心とした新しい教育機器等を使用した教育方法の開発研究のため、教育方法開発特別設備補助を創設、公立の小、中、特殊教育、高等学校へのコンピュータ等の導入に対して国庫補助を行ったからです。
この時期からCAIと呼ばれる個に応じた指導が展開されている学校もありました。実は、1970年代から、筑波大学の研究チームが算数や理科の授業でCAIに関する実践研究が推進していたのです。
1980年代になると、教師、学習者、学習者同士の相互作用も重視され始めました。こう見ると、ICT教育は個別学習や協働学習という考え方がすでに登場していたと言えますよね。
ほう。わが国のICT教育は古くから検討されてきていた・・・と
なんと・・・しっかり考えてはいたんじゃないか・・・!
さて、ICT化へ向けた細かい変遷についてこの辺りから話をすると、タランティーノも驚きの長編になってしまいますので、別の記事で紹介するとして、今回のGIGAスクールに関連する最近の取り組みを見ていきましょう
平成15年、校内ネットワーク活用ガイドブックが国から配布されます。ここではITは道具であり、学校教育においては、各教科において確かな学力の向上のために活用していかなければならないとしています。ここで提案されているネットワークの活用イメージは教材の共有やメール、掲示板でのやり取り、遠隔地との交流程度にとどまり、教室に1台パソコンを置く程度のイメージでした。
平成20年に発刊された、学校のICT化のサポート体制の在り方について~教育の情報化の計画的かつ組織的な推進のために~では、学校のICT化のサポート体制の整備の必要性として、既に情報活用能力、効果的な確かな学力の向上、教員の事務負担の軽減を目的としたICT化が提言され、学校のICT環境の遅れや教員のICT活用指導力不足を課題としたうえでICT支援員の必要性を説いています。
平成23年には教育の情報化ビジョン~21世紀にふさわしい学びと学校の想像を目指して~が発刊されます。これら背景には平成13年の高度情報通信ネットワーク社会形成基本法の施行や、E-Japan戦略、IT新改革戦略、I-Japan戦略2015などの国家戦略があります。ここでは個別学習や協働学習を主に押し出し、情報モラルの必要性やクラウドについての言及もあります。
平成25年、第2期教育振興基本計画が出され、その中にICTの活用などによる協働型・双方向型学習の推進が色濃く表現されています。
そして平成26年、第2期教育振興基本計画に基づき教育のIT化に向けた環境整備4か年計画が始まることになります。(補助は地方交付税措置)
単年度1678億円の予算を盛り込んだこの計画は、平成29年までに以下の目標を掲げました
- 3.6人に1台の教育用コンピュータ(学習用ソフトウェア含む)
- コンピュータ教室40台
- 各普通教室1台、特別教室6台
- 設置場所を限定しない可動式コンピュータ40台
- 電子黒板・実物投影機の整備1学級あたり1台
- 超高速インターネット接続率及び無線LAN整備率100%
- 教員1人につき1台の校務用コンピュータ
- ICT支援員
この時期になると、グループワーク等でPCを1人1台で用いた学習や引き続き校務事務の軽減が紹介され、普通教室にはコンピュータ1台、電子黒板1台、実物投影機1台を基本の教室設備としています。
しかし、平成27年には調査報告の中で都道府県における「ICT 環境整備計画」の策定状況は「策定、検討していない」が41.3%と最も多く、策定しているが10.9%にとどまりました。策定、検討していない理由は「予算措置が見込めない」が最も多く、次いで「事前検討が十分ではない」「優先すべき他の課題がある」が続きます。こうした予算確保の困難さが、ICT環境整備を遅らせた原因と言えるでしょう。
平成29年、学校及び自治体等のICT環境整備に関する実態調査結果をみても、普通教室では大型提示装置、教育用PCは導入があまり進まなかったと言えるでしょう。しかしコンピュータ教室では整備が進んだようで、クラス単位でICTを利用した授業を受けることが出きる環境が整ったようにも見えます。
その結果を受け、平成30年、教育のICT化に向けた環境整備5か年計画がスタートします。この計画は、指導要領改訂というタイミングでもあり、プログラミング教育という文言が見られ、令和3年度までに以下の目標を掲げました。(単年度1805億円の予算規模。地方交付税措置)
- 3クラスに1クラス分程度の学習用コンピュータ
- 教師1人1台分の指導者用コンピュータ(学習用ツール)
- 大型展示装置・実物投影機、各普通教室1台、特別教室用として6台100%整備
- 超高速インターネット及び無線LAN 100%整備
- 統合型校務支援システム100%整備
- ICT支援員 4校に1人(校務用、学習用サーバ、セキュリティソフト等も対象)
そして、令和元年5か年計画の途中でGIGAスクール構想が閣議決定されます。
概要は既に上記しているので省略しますが、このような学校の情報化の流れで今回の構想が生まれたのです。5か年計画と大きく違う点は、1人1台の端末という部分です。端末の整備支援だけでも1951億円かかります。令和2年度補正予算額は2292億円です。
ふむ・・・なんだか、言っても言ってもやらないんだから!っていうお母さんの声が聞こえてきそうですね。
とにかく・・・
これが、今回のGIGAスクール構想までの流れということになります。
いかがでしたか?
意外と早い段階から導入しようとしてきているんだなと感じませんでしたか?
それとも、動き出すのが遅すぎたと感じましたか?
どちらにせよ、数字として日本の学校現場のICT環境整備が遅れていることが出ています。国が怠惰だったのか、都道府県なのか、市町村なのか、教育委員会なのか、学校現場なのか。
一概にどこが悪いとは言えませんし、いう必要もないでしょう。
ようやく、各自治体が本気になっているような気がしますね。
まとめとして
さて、今回は大枠でGIGAスクール構想スクール構想って何者なのかを知ってもらうために、目指す社会をヒントに、情報化の流れを追ってみました。
今では整備の遅れをよく聞くようになりましたが、日本はちょっと前まで教育ICTにおいて決して遅れていたわけではありません。徐々に置いていかれてしまったのです。
技術が加速度的に進む今の社会では、変わり続けることが求められます。それは教育でも同じことです。変えてはいけない部分も多くあるでしょう。しかし、変わらなければならない事も多いのが事実です。
国は、一旦このタイミングで皆で変えよう?ほんとに、頼むから。こっちでお金出すしさ。と言っています。
皆さんの自治体は、それにしっかりと答えていますか?
次回からは、補助金や導入時期など違う観点で、より深くGIGAスクール構想を見ていきたいと思います。